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クリーンベンチとは?安全キャビネットやドラフトチャンバーとの違い、クラス分類について解説!

研究室や工場において、クリーンな環境の維持や作業者の安全確保は最重要課題です。
特に、微生物、細胞、化学物質などを取り扱う現場では、「クリーンベンチ」「安全キャビネット」「ドラフトチャンバー」といった特殊な装置が不可欠となります。
しかし、「それぞれの違いが曖昧で、どれを選べば良いかわからない」「自社の用途に最適なのはどれか」といった疑問をお持ちの方も少なくないのではないでしょうか。
この記事では、クリーンベンチと安全キャビネット、そしてドラフトチャンバーの基本的な機能から、その決定的な違い、さらには安全キャビネットのクラス分類までをわかりやすく解説します。
クリーンベンチとは?
クリーンベンチは、作業エリアを清浄な空気で満たし、外部からの汚染を防ぐことで、無菌的な作業環境を提供する装置です。
主に製品やサンプルの汚染防止を目的として使用されます。
クリーンベンチの目的と主な用途
クリーンベンチの最大の目的は、取り扱う対象物(製品、サンプル、培地など)を外部の浮遊塵や微生物から保護することです。
作業者や環境の保護を主目的とはしていません。
主な用途
- 微生物の培養や細胞操作(ただし、病原性のある微生物は除く)
- 半導体や精密機器の組立・検査
- 医薬品、化粧品の調製
- 食品の品質検査
- 試薬の秤量や分注
清浄な環境を実現する仕組み
クリーンベンチは、高性能フィルターであるHEPA(High Efficiency Particulate Air)フィルターを通して清浄な空気を作業空間に供給することで、清浄度を保ちます。
室内の空気を取り込み、HEPAフィルターでろ過し、作業面に層流(一方向に均一な流れ)として吹き付けることで、塵や微生物が作業面に滞留するのを防ぎます。
水平層流式と垂直層流式の違い
クリーンベンチには、空気の流れの方向によって大きく2つのタイプがあります。
水平層流式クリーンベンチ
特徴
HEPAフィルターが作業空間の奥に設置されており、清浄な空気が作業面に対して水平方向に流れます。
メリット
作業空間全体が均一な清浄度を保ちやすく、比較的安価なモデルが多いです。
デメリット
作業者の腕や器具が空気の流れを遮断しやすく、作業者から発せられる汚染物質が製品に到達するリスクがあります。また、排気は作業者側に出るため、作業者保護には向きません。
垂直層流式クリーンベンチ
特徴
HEPAフィルターが作業空間の天井に設置されており、清浄な空気が作業面に対して垂直方向(上から下)に流れます。
作業面下部の開口部から排気されます。
メリット
作業者の腕や器具による空気の流れの乱れが水平層流式に比べて少なく、製品への汚染リスクを低減できます。
デメリット
水平層流式に比べて構造が複雑で、高価になる傾向があります。
排気は作業者側に直接は出ませんが、製品保護が主目的である点は水平層流式と同様です。
クリーンベンチ、安全キャビネット、ドラフトチャンバーの決定的な違い
これら3つの装置は、見た目が似ていても、その目的、機能、保護対象が大きく異なります。
適切な装置を選ぶためには、これらの違いを正確に理解することが不可欠です。
保護対象の違い
クリーンベンチ
- 保護対象:製品・サンプルのみ。作業者や環境は保護しません。
- 空気の流れ:装置内の清浄な空気を外部(作業者側)へ排出します。
安全キャビネット(Biological Safety Cabinet: BSC)
- 保護対象:製品・サンプル、作業者、環境の三者を保護します。特に、病原性微生物などのバイオハザード物質を取り扱う際に使用されます。
- 空気の流れ:外部の空気を装置内に取り込み、HEPAフィルターでろ過した清浄な空気を製品に供給しつつ、装置内の空気をHEPAフィルターでろ過して外部に排気または循環させます。作業者への逆流を防ぐためのエアカーテン構造を持ちます。
ドラフトチャンバー
- 保護対象:作業者と環境のみ。製品・サンプルの清浄度維持は目的としません。主に有害な化学物質の蒸気やガスから作業者を保護します。
- 空気の流れ:装置内に外部の空気を引き込み、有害なガスや蒸気を排気ファンによって直接外部へ排出します。HEPAフィルターは通常使用されません(特殊な用途を除く)。
空気の流れと排気システムの違い
| 装置名 | 空気の流れ | 排気システム | フィルター |
|---|---|---|---|
| クリーンベンチ | 室内の空気を吸い込み、HEPAフィルターでろ過後、作業面へ層流で供給し、作業者側へ排出。 | 装置内の空気を外部へ排出(非排気型)。 | HEPAフィルター(供給側) |
| 安全キャビネット | 外部の空気を吸い込み、作業面へ垂直層流で供給。装置内の空気をHEPAフィルターでろ過後、一部を外部へ排出し、一部を循環させる。エアカーテンで作業者を保護。 | 排気型(外部排気)または循環型(内部循環)。排気にはHEPAフィルターを使用。 | HEPAフィルター(供給側、排気側) |
| ドラフトチャンバー | 外部の空気を吸い込み、装置内の有害なガス・蒸気を排気ファンで直接外部へ排出する。 | 全量外部排気型。 | 通常なし(活性炭フィルターなど特殊用途は除く) |
対応可能なリスク物質の種類
クリーンベンチ
- 対応物質:非病原性の微生物、細胞、クリーンな環境を要する精密部品、無菌的な試薬など。
- 不適な物質:病原性微生物、有害化学物質、揮発性溶剤など。これらは作業者や環境にリスクをもたらすため、クリーンベンチでは扱えません。
安全キャビネット
- 対応物質:バイオハザードレベル1〜3(クラスII、クラスIIIの場合)の病原性微生物、ウイルス、組換えDNA実験試料など。微量の揮発性化学物質もクラスIIタイプB2などで対応可能。
- 不適な物質:大量の揮発性・爆発性・腐食性化学物質、放射性物質など。
安全キャビネットのクラス分類
安全キャビネットは、保護レベルと空気の流れの方式によって、主にクラスI、クラスII、クラスIIIに分類されます。特にクラスIIは、さらにタイプA1、A2、B1、B2に細分化されます。
クラスI
作業者と環境を保護しますが、製品は保護しません。
クラスII
製品、作業者、環境の三者を保護します。
- タイプA1/A2:装置内の空気の一部を排気し、大部分を循環させます。微量の揮発性化学物質は扱えますが、大量の排気はできません。
- タイプB1/B2:装置内の空気を全て外部へ排気します。特にB2は排気ダクトに接続され、装置内の空気が完全に外部へ排出されるため、揮発性化学物質や放射性物質を扱う場合に適しています。(ただし、一般的なドラフトチャンバーほどの排気能力はありません。)
クラスIII
グローブボックス型で、完全に密閉された環境を提供します。最も高いレベルの保護が必要な高リスク病原体(バイオハザードレベル4など)を取り扱う際に使用されます。
ドラフトチャンバー
- 対応物質:有害なガス、蒸気、粉塵を発生する化学物質、揮発性有機溶剤、酸、アルカリなど。
- 不適な物質:無菌環境を要する作業、病原性微生物など。
設置環境とコストの比較
クリーンベンチ
- 設置環境:比較的自由度が高いですが、周囲の空気清浄度が高い方が望ましいです。排気ダクトは不要。
- コスト:初期導入費用は3つの装置の中で最も安価な傾向にあります。ランニングコストも比較的低いです。
安全キャビネット
- 設置環境:クラスIIタイプB型やクラスIIIは外部排気ダクトの設置が必要です。設置場所の振動や気流の影響を受けにくい場所が推奨されます。
- コスト:初期導入費用はクリーンベンチより高価です。HEPAフィルターの交換頻度や、排気型の場合は排気設備が必要となるため、ランニングコストも高めです。
ドラフトチャンバー
- 設置環境:外部排気ダクトの設置が必須であり、排気能力に見合った排気ファンやダクト工事が必要です。排気口の位置や周囲環境への影響も考慮する必要があります。
- コスト:初期導入費用は装置本体に加え、排気設備や工事費用が高額になることがあります。排気ファンやフィルターの交換、電気代など、ランニングコストも高めです。
クリーンベンチ選定のポイント
自社の用途に最適なクリーンベンチ(または安全キャビネット、ドラフトチャンバー)を選定するためには、以下のポイントを総合的に考慮する必要があります。
取り扱う物質のリスクレベルと種類
- 無害な物質、製品保護のみが必要な場合:クリーンベンチが適切です。
- 病原性微生物(バイオハザード)を取り扱う場合:安全キャビネット(BSC)が必須です。バイオハザードレベルに応じてクラスI、II、IIIを選定します。
- 有害な化学物質の蒸気やガスを取り扱う場合:ドラフトチャンバーが必須です。
必要な清浄度と保護レベル
- ISO清浄度クラス:クリーンベンチや安全キャビネットは、ISO 14644-1で定められた清浄度クラス(例: ISOクラス5)を満たす必要があります。
- HEPAフィルター性能:0.3μm以上の粒子を99.97%以上捕集するHEPAフィルターが一般的ですが、より高性能なULPAフィルターが必要な場合もあります。
- 保護レベル:製品保護のみか、作業者・環境保護も必要かを確認します。
作業内容と作業者の安全性
- 作業性:作業空間の広さ、照明、騒音レベル、エルゴノミクス(作業者の姿勢や快適性)も考慮します。長時間の作業では、作業者の疲労軽減が重要です。
- 安全機能:警報システム(風速異常、フィルター詰まりなど)、UV殺菌灯(オプション)、緊急停止機能なども確認しましょう。
導入コストとランニングコスト
- 初期導入費用:装置本体価格、設置工事費、運送費など。
- ランニングコスト:HEPAフィルター交換費用、電気代、定期メンテナンス費用、排気設備がある場合はその維持費など。長期的な視点でコストを比較検討することが重要です。
関連法規・ガイドラインの遵守
- 製造業:GMP(Good Manufacturing Practice)などの製造管理基準。
- 大学・研究機関:GLP(Good Laboratory Practice)、BSL(BioSafety Level)などの実験室安全基準。
- 化学物質取扱規則:特定化学物質障害予防規則、有機溶剤中毒予防規則など。
これらの法規やガイドラインに適合しているか、導入前に必ず確認し、必要に応じて専門家やメーカーに相談してください。
クリーンベンチに関するFAQ
Q1.クリーンベンチで病原性のある微生物を扱っても大丈夫ですか?
A1.いいえ、クリーンベンチは作業者や環境を保護する機能がないため、病原性のある微生物を取り扱うことはできません。
必ず安全キャビネット(BSC)を使用してください。
Q2.クリーンベンチのHEPAフィルターはどのくらいの頻度で交換すべきですか?
A2.使用頻度や設置環境によりますが、一般的には1〜3年が目安とされています。
風速測定や粒子カウンタによる清浄度測定を行い、性能低下が認められた場合は交換が必要です。定期的な点検とメンテナンスが重要です。
Q3.クリーンベンチと安全キャビネットは、どちらが高価ですか?
A3.一般的に、安全キャビネットの方がクリーンベンチよりも高価です。
これは、安全キャビネットが製品、作業者、環境の三者を保護するための複雑な構造と高性能なフィルターシステムを持っているためです。
まとめ
クリーンベンチ、安全キャビネット、ドラフトチャンバーは、それぞれ異なる目的と機能を持つ重要な実験・作業装置です。
製品・サンプルの汚染防止には「クリーンベンチ」、病原性微生物からの三者保護には「安全キャビネット」、有害化学物質からの作業者・環境保護には「ドラフトチャンバー」と、用途に応じて最適な装置を選ぶことが、安全かつ効率的な研究・製造活動の基盤となります。
選定にあたっては、取り扱う物質のリスクレベル、必要な清浄度、保護レベル、作業内容、そして導入・運用コスト、関連法規の遵守を総合的に検討することが不可欠です。
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